大成町から北檜山町へ抜ける峠に入る少し手前、曲がりくねった林道の行き止まりにその温泉宿はありました。
車を降りると犬がお出迎えです。玄関を開けて声をかけますが、主は留守のようです。小さな木の箱に入浴料を入れて廊下を進むと突き当たりが脱衣場、その奥が小さな内風呂、そのまた奥に六角形の露天風呂がありました。露天風呂は小さな谷に面していて、四季の彩りが温泉の効能をもう一つ深いものにしてくれるようでした。
露天風呂に身を沈めて谷に切り取られた小さな空を見上げていると、普段自分が暮らしている場所より、ほんの少し時間の流れがゆっくりの様に思えます。
表から微かにエンジンの音が聞こえ、内風呂をぼんやりと灯りが照らします。いつの間にか帰ってきた主が発電機を回したのでしょう。灯りを見て、谷の暗さに気が付きました。少し長湯をしたようです。

と、過去形で思い出を綴ったのは、私の愛した小さな山間の温泉宿はもう無いからです。老夫婦は街に降り、跡地は町が整備した温泉施設があります。小綺麗なログハウスの脱衣場と、なにやら岩を配した露天風呂は木の塀で男女が仕切られています。
お湯も、小さな谷の風景にも変わりはありませんが、私には少々よそよそしいようです。
とはいえ、目の前から溢れ出る源泉を引き込んだこの温泉は未だに私的ランキングの上位に位置します。夏場はアブがうるさいので、お勧めは早春と、晩秋です。春は湯船に桜の花びらが散り敷いて文字通り桜湯です。
写真は現在の物で、残念なことに昔の写真は残っていません。
posted by yamasemicchi at 22:34|
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